東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)209号 判決
1 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について、判断する。
(一) 本願意匠及び引用意匠は、共に意匠に係る物品を「額」とするものであること、両意匠の要旨は、審決認定(第二、2、(一)及び(二))のとおりであることは、当事者間に争いがない。
原告は、本願意匠と引用意匠とは、円形メダルの配置及び円形メダルの表画の模様の点において顕著な差異があるのに拘らず、審決は、右相違点を看過した旨主張する。
成立に争いのない甲第三一号証の一ないし三によれば、本願意匠は、中板画面の中央部より上部に寄せて四個の円形メダルを配置したものであり、願書添附の図面(別紙図面(一))に基づいて計測すると、上の二個の円形メダルの中心間の距離は、下の二個の円形メダルの中心間の距離の約二倍であり、かつ上の二個の円形メダルの中心を結ぶ線と下の二個の円形メダルの中心を結ぶ線との間の距離の約二・七倍であり、左側上下二個の円形メダルの中心を結ぶ線と右側上下二個の円形メダルの中心を結ぶ線との間の角度は約七〇度であること、円形メダルの表面には、手形、足形のそれぞれの周囲に薄く波目模様が現されていることが認められる。
これに対し、成立に争いのない甲第二九号証の一によれば、引用意匠は、中板画面のほぼ中央部に四個の円形メダルを配置したものであり、願書添附の図面(別紙図面(二))に基づいて計測すると、上の二個の円形メダルの中心間の距離は、下の二個の円形メダルの中心間の距離の約一・三倍であり、かつ上の二個の円形メダルの中心を結ぶ線と下の二個の円形メダルの中心を結ぶ線との間の距離の約一・六倍であり、左側上下二個の円形メダルの中心を結ぶ線と右側上下二個の円形メダルの中心を結ぶ線との間の角度は約二二度であること、円形メダルの表面には、円形メダルの周囲より中心の手形、足形に向かつてそれぞれ放射状模様が現されていることが認められる。
そこで、本願意匠と引用意匠との円形メダルの配置及びその表面の模様を対比すると、本願意匠は、中板画面の中央部より上部に寄せて下の二個の円形メダルに対し上の二個の円形メダルが左右に大きく開くように配置したものであるのに対し、引用意匠は、中板画面のほぼ中央部に下の二個の円形メダルに対し上の二個の円形メダルが小さく左右に開くように配置したものであること、本願意匠は、円形メダルの表面の周囲の模様が薄い波目模様であるのに対し、引用意匠は、その模様が放射状模様である点に差異があるものと認められる。
しかしながら、両意匠は、前記のとおり、共に意匠に係る物品を「額」とするものであり、その物品の性質上、主として正面から観察されるものであるところ、前記両意匠の要旨に基づき、両意匠を対比すると、両意匠は、その形態において、全体が縦横の比をおよそ一対一・二とした長方形状であつて、四周の縁枠の幅をおよそ縦の長さの<省略>のものとし、その縁枠が外側と内側を小対大の比に二分する態様に構成し、外側を刳形で現し、内側が羽先を有する平板面にしたもので、刳形は、外側が前面に突出し、内側が外側より低いものであつて、中板画面に、四周にかなりの余地を残し、額縁の縦の長さの約<省略>の径の円形メダルを逆八の字状に四個配置し、上の二個は左右の手形を、下の二個は左右の足形をそれぞれレリーフ状に現した態様のものである点において共通しており、この共通点は、「額」の意匠としての全体的なまとまりを形成し、看者が正面から受ける印象を支配するものであるから、両意匠の要部をなすものであり、成立に争いのない甲第二号証ないし第一八号証、第二九号証の二ないし八及び第三〇号証によつても、右認定判断を左右することはできない。
したがつて、逆八の字状に配置された上下四個の円形メダルの開き方やその周囲の模様に前記認定程度の差異が存しても、その差異は微小であり、看者の注意を惹くものとはいえないから、意匠全体の類否判断に影響を与えるものではないというべきである。
また、原告は、本願意匠と引用意匠とは、中板画面とその周囲の縁枠の部分との明度差において相違するのに拘らず、審決は右相違点を看過した旨主張する。
前掲甲第二九号証の一及び第三一号証の一ないし三によれば、本願意匠は、中板画面が淡色で、その周囲の縁枠の部分が濃色であるから、明度差が大きいのに対し、引用意匠は中板画面とその周囲の縁枠の部分との間に明度差のないものであることが認められるが、額という物品の性質から中板画面とその周囲の縁枠部分との明度差は、殆ど看者の注意を惹くことのないものであることは明らかであつて、両意匠がその要部において共通するものである以上、この明度差についての差異は意匠全体の類否判断に影響を与えるものとはいえない。
したがつて、審決には、本願意匠と引用意匠とを対比判断するに当たり、両意匠の顕著な差異を看過した誤りはない。
(二) 前掲甲第二九号証の一及び第三一号証の一ないし三によれば、本願意匠は、中板画面の右下隅に中板画面の横の長さの約<省略>、縦の長さの約<省略>の四周に縁取りをした小矩形の浅い凹陥部が設けられているのに対し、引用意匠には、このような凹陥部は存しないこと、本願意匠の凹陥部は中板画面より明るく、中板画面との間に明度差があること、引用意匠の縁枠上部中央には縁枠の横の長さの約<省略>、縦の長さの約<省略>の正方形の中に花弁模様が現されていることが認められる。
原告は、右相違点に基づき、本願意匠は、凹陥部により中板画面の平坦部にアクセントを与え、正面に現れる意匠の構図を引き締めており、かつ全体の左右対称性が崩されているのに対し、引用意匠には凹陥部が存せず、かえつて縁枠上部中央の花弁模様により左右対称性が強調されているから、両意匠には顕著な美感の相違がある旨主張する。
しかしながら、本願意匠においては、特に中板画面に注目してこれを正面から観察した場合であつても、本願意匠の要部である、四周にかなりの余地を残し額縁の縦の長さの約<省略>の径の円形メダルを逆八の字状に四個配置し、上の二個は左右の手形を、下の二個は左右の足形をそれぞれレリーフ状に現した態様が、看者の印象を支配するものであつて、中板画面の右下隅に前記認定程度の大きさの小矩形の浅い凹陥部があつてもこれにより意匠の構図が引き締められ、左右対称性が崩れて看者の印象に強く影響を与えるものということはできない(成立に争いのない甲第一九号証ないし第二八号証によれば、原告は、額縁の中板画面に手形足形を現す四個の円形メダルを配し、右下隅に写真枠を配したものを販売し、これが雑誌、新聞等に宣伝あるいは紹介されていることが認められるが、このことは、本願意匠についての前記認定判断を左右するものではない。)。また、中板画面との明度差も、看者の注意を惹く程度のものとはいえない。一方、引用意匠においても、前述のとおり、看者の印象を支配する要素は、本願意匠と同様であつて、花弁模様は前記認定程度の、意匠全体からみるときわめて小さい部分を占めるにすぎないから、看者に与える印象も薄く、これによつて意匠全体の対称性を強調するものとはいえない。
したがつて、中板画面の凹陥部の有無について、未だこの程度の差異では、額全体の類否に影響を与えるほどのものとは考えられず、その差異は微差に止まるというほかないとした審決の判断には誤りはない。
(三) 前記本願意匠及び引用意匠の要旨に基づき両意匠を対比すると、本願意匠は刳形の外側の断面形状を山形とし、内傾斜の刳形の稜に接して透明ガラスを嵌めたものであるのに対し、引用意匠は、刳形の外側の断面形状を厚板状とし、ガラスを嵌めていないものであることが認められる。
原告は、右相違点に基づき、看者に対し、本願意匠は豪華な印象を与え、引用意匠は逆に質素な印象を与えるものであり、しかも縁枠の断面形状は全体形状に及ぼす影響が大きいから、両意匠間には、顕著な美感の相違がある旨主張する。
しかしながら、本願意匠と引用意匠は、共に看者の印象を支配する意匠の要部は、前記(一)認定の点に存し、刳形の外側の断面形状が山形か厚板形かは微小な差異であつて、これによつて看者の印象が左右されるものとはいえず、また額には、ガラスを嵌めたものとガラスを嵌めないものとがあることは「額」という物品の分野において広く知られていることであり、かつ、透明ガラスを用いることは当然のことというべく、したがつて、透明ガラスを嵌めたことは額の意匠の創作の要素としてはごく小さいものであると解するのを相当とし、ひいて、透明ガラスを嵌めた点をもつて看者の注意を特に惹く部分とすることはできないから、看者に対し本願意匠が豪華な印象を与えるのに対し、引用意匠が質素な印象を与えるほどに顕著な美感の相違をもたらすとは到底認めることができない。
したがつて、本願意匠と引用意匠との刳形の断面形状の差異は微小なものであり、またガラスの有無は意匠全体の類否判断への影響が皆無に等しいとした審決の判断には誤りはない。
(四) 以上のとおりであつて、本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品を同一とし、意匠の要部たる形態を同一とするものであり、前記の微小な差異によつて両意匠が類似しないものとすることはできないから、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法は存しない。
3 よつて審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五三年三月八日意匠に係る物品を「額」とする別紙(一)のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第九一三二号)をしたところ、昭和五八年七月三〇日拒絶査定があつたので、同年一〇月五日審判を請求し、昭和五八年審判第二〇九九六号事件として審理された結果、昭和五九年七月二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月二三日原告に送達された。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙(一)
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別紙図面(二)
<省略>
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